・特別な日・
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 誰にも断りなしにあいつがいなくなって半年。
 ――もう半年。でも、まだ半年。
 誰一人としてまだ。あいつのことは、思い出になんかできてないって知ったのは。


 その張本人が、何食わぬ顔で戻ってきた日だった。





「…ただいま」

 聞きなれた声。聞きなれた幻聴。
 ユニシスは僅かに浮かんだ期待を否定するように、頭を振った。

 何度、そんな夢を見ただろう。
 あの嵐の晩に消えた少女が、そうして自分達の元に帰ってくる夢を。

 そのたびに慌てて名を呼び駆けては、ヨハンの寂しそうな微笑に出会った。
 誰もいない玄関。
 立ち尽くしたままのユニシスがやっとのことで振り返ると、いつもそこに立っていて。
 何も言わずに、頭を撫でてくれた。
 …ユニシスの痛みが、治まるまで。

 だから、もう繰り返すのは止めようと、誓ったのだ。
 それなのに。


「だれも…いないの…?」

 行かなければ行かないで、幻聴はエスカレートしていくものなんだな。
 棚を漁って実験の準備を進めながら、ユニシスは苦笑した。
 いつまで経っても変わらない。記憶というものは、薄れていくもののはずなのに。
 彼女の声だけは、いつも。

「…なんだ、いるじゃない…」
「もーしつっこいっ!!」

 声をかき消すように、大声を上げる。
 しつこい。
 自分が辛くなるだけなのに。なんで。
 なんでこんなに、あいつのことばっかり思い出してるんだろう。

「む…しつれいね。…てんちゅう」
「へ?」

 閉じられていたはずの扉の方から、やけにはっきりとした幻聴。
 じゃ、なくて。

 ぼかっ

「いっ…てー!!」

 頭を抑えて振り返ったユニシスの目に映ったのは、銀の髪を二つに結んだ、あのときのままの。
 いや、記憶よりも綺麗になったような気がするとか、相変らず笑顔の一つも浮かべてないとか、それどころかものすごく不機嫌そうな顔をしているとか、…とても、逢いたかったとか。
 そんなことは置いておいて、とにもかくにも。

「アクア?!」

 なのだった。




+++





「アクアが戻ってきたって、本当かよっ!」
「これっ、もっと扉は静かに開けんか!」
 失踪したと思われていたアクアが魔法院へと帰ってきたという知らせは瞬く間に広がり、それを聞きつけた人々が次々と魔法院へとやってきていた。
「アクアさん…っ、無事だったんだね!よかったぁ…」
「…そんなにあわててくること、なかったのに…」
 慌しい再会でも、アクアは嬉しそうだ。
 一見無表情のままだったが、少なくともここに集まる人々は、彼女の微妙な表情の変化も読み取ることが出来る者ばかりだった。
「ア〜クア殿〜!」
 馬車の音がして、たくさんの人の足音。どうやら最終陣が到着したらしい。
 人が多すぎて閉められなくなった扉の向こうから、月のように鈍く輝くプラチナブロンドの髪が覗いた。
「あっは、本当にアクア殿だ!」
 今にも抱き締めんばかりの勢いで迫ってくるシリウスを、アクアは手で牽制する。
「まだ、じぶんの国にかえってなかったのね」
「うわ、相変らずひどいなー。…だって、ここにいたらもしかしたら、君が戻ってくるかもしれないだろう?」
 いつもの彼らしくなく、かすかに寂しげな笑みを浮かべたように見えて、アクアが口を開きかける。そこへ。
「そして、その読みは見事当たったわけだ。ねぇ?」
『シリウスサマハヤッパリテンサイダネー!』
「はっはっは、そのとおりだよボビー!」
 懐かしの人形劇が始まってしまっては、思わず溜息も出ようもの。
「…あなたこそ、あいかわらずね…」
 呆れ果てて言ったはずの言葉に、シリウスはなぜか嬉しそうに笑みを返した。
「シリウス様。そろそろ場所を空けていただきたいのですが」
 ソロイが言うと同時に、シリウスの後ろから小柄な人影が飛び出す。
「アクアさん、お久しぶりです!…帰って、来られたんですね」
 感慨深げに、確かめるように。言葉を紡ぐその姿に、アクアよりも周りが先に反応した。
「うわっ、プルート様!?」
 ほんの数ヶ月前に議会制に移行したとはいえ、人々にとってはまだ、プルートはほとんど空の上の存在に近いのだ。そんな人物が突然目の前に来て、驚かない者といえば。
「あは、プルート様もいらっしゃったんですね!」
「はい、いてもたってもいられなくて」
「それはそうじゃろうな。ソロイ殿もそうなのであろう?こんなに早くここに来たということは」
 ――一緒に来た2人以外では、この元星の娘候補達ぐらいのものだろう。
「…みんなして、大げさ」
「「「「「「そんなことはない(です・よ)!!」」」」」」
 ほぼ全員が声を揃え、アクアの呟きを一蹴する。
 その勢いに圧倒されながらも、彼女は珍しく顔をほころばせた。
「…!あ、あのっ、あの!…おかえりなさい、アクアさん!」
 その微笑みを受けて。頬を染めて、嬉しそうに。本当に嬉しそうに。
 マリンも微笑みを返す。
 それは、ここにいる皆の言葉でもあった。

「…ただいま…」


 二度目のただいまは、皆に見守られて。




+++





「ところで先生は?」
 誰かが尋ねて初めて、壁際で黙り込んでいたユニシスが口を開いた。
「…先生は、手続き中」
 発した声の調子から、どうやら不機嫌であるらしいことが伺えた。
 一言も発さずにいた時点で8割がたそうであることは予想がついていたが、彼の場合はそれが常のようなものであったし、理由にも思い当たることがあったので(せっかく帰ってきたアクアがこのように囲まれ、自分と話す暇がないというのは面白くないに違いない)誰も特に不思議に思わなかった。
「手続きとは、なんのじゃ?」
 そう葵が問い返したとき、彼の表情が曇るのを見るまでは。
「…ユニシス?」
「新入りが、ここに入る手続きだよ」
 問い掛けるアクアの声をさえぎって、ぶっきらぼうに言葉を投げる。
「新入り?」
 魔法に関する認識もわずかにだが変わり始め、新たにヨハンに教えを請いにくる者は珍しくはなくなっていた。
 なのに、このユニシスの反応はなんだろう。
 訪れた沈黙に耐えられなくなったのか、ユニシスはまた口を開いた。
「…その新入りっていうのは、アクアの」
「いやー、すみません。お待たせしてしまいまして」
 廊下のほうから聞こえてきた声に、みんなの視線が集まる。
 しばらくすると、予想どおりの人物が姿を見せた。
「おや、皆さんお揃いで」
 大勢の人が詰まった部屋の中をぐるりと見渡して、その中心のアクアに微笑みかける。
「先生…、ぶじ、おわった?」
「終わったよ」
 アクアの声に答えたのは、ヨハンではなかった。
 ヨハンの隣に立った、青い髪と服の少年が。ふわりとやわらかい笑みを浮かべて。
「…えっ」
 小さな呟きをもらしたのは、誰だったのか。
 アクアは少年に走りよると、はっきりと微笑んだ。
「よかったわね…おにいちゃん」
 そのたった一言に、部屋の中の時が止まる。
「…お兄、ちゃん?」
 アークがようやくそう漏らしたのを合図にしたように、アクアに腕を引かれたその少年は小さく一礼をしたのだった。
「ブルーです。よろしくお願いします」



 それは、新たな日常の幕開けとなる――特別な日の出来事。
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なんか結構いっぱいいっぱいな感じなのですが…(汗)
なんにせよ、初ファンタ2話です!
書くならこの設定でと心に決めていましたのでとりあえず満足ですv…出来はともかく(爆)
全員を出すのが大変で収拾つかなくなってどうしようかと思いました。
説明不足ですが雰囲気で読み取ってください!(汗)
そして、最後に都合上切り取ってしまった会話があるのですが、個人的には必要なものだったのでこちらで。
ほんっとーに!短いです。会話だけです。その気になったらSSに直します(汗)

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