・わすれもののさがしかた・
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 水音が聞こえる、静かな場所。
 日の光が降り注ぐその場所で、程よく影ができる木陰は絶好の昼寝スポットとなるはずだった。
 でもいつからか、そこにあるのは人でもピクシーでもなくて、ひとつの壷で。
 明らかに違和感のあるその光景は、あのときからそこの住人たちには自然と受け入れられるようになっていた。意図的に動かそうとするものもいない。いつでもそこにある。
 だってそこには・・・時折、アークがやってくるのだから。


 ふわ、と日の光とは別の明かりがあたりを照らし出した。
 壷の手前に光り輝くものが降り立ち、一層輝いたかと思うと人型を作り出す。
 大きな帽子をかぶった、陽気な感じの少年。
 すっかりこの世界の住人とは顔見知りになった、勇気のアークであった。
 しかし彼を知る人々なら誰もが、今の彼の様子に首をかしげた事だろう。
 いつもなら落ち着きなくあたりを飛び回るのに、壷の隣に座り込むとそのまま俯いてしまうし、いつもならくるくると変わる彼の表情は今は沈んでいく一方だった。
 膝を抱え込んで、こてん、と頭を乗せる。
「まったく、なんであんなに怒ったのかなぁ・・・」
 はぁぁ、と深く溜息をついて腕を前に伸ばした。そのうち手のひらは、力なく地面と触れ合う。
 思い出されるのは、金の髪が綺麗なみつあみの少女のひどく怒った表情。

 どちらかといえば親切心だった。
 少女―アリス―のポケットに、枯れた草が入っているのをたまたま見つけた。それを、何気なく捨てた。
 それだけだった。でも、それを知ったときアリスは・・・。
 "なんでそんなに怒られなきゃいけないのさ"
 怒られたときはそんな風に思ってしまって、逆にアリスに文句を言った。
 怒られるのが辛くて、もうこれ以上顔を見ていたくなくて、怒る声を聞きたくなくて。
 それを捨て台詞にして逃げてきてしまったのだった。

 いつも微笑んでくれる少女があんなに怒ったのは初めてのことで、彼が柄にもなく落ち込んでいるのはその所為であった。
「もー、わけわかんない」
 顔を上げて隣を見やると、壷と目が合う。別に壷に目がついているわけではないが、感覚的にそう思った。
 この壷もただの壷ではない。妖精の宿る壷なのだ。
 一時期、勇気のアーク自身もこの壷の中にご厄介になった事がある。
 そして、この壷がこの場所にあるのは、勇気のアークが原因だった。あのころはまだ、勇気の"妖精"だったわけなのだけれど。
「・・・助けてよ。アリス」
 あのときもそうだった。
 壷に嵌まって出られなくなった勇気のアークは、ただひたすらに助けを求めて跳ね回った。
 声を頼りにしてわめいて、そしてアリスに出会った。
『わ、わかった。わかったから落ち着いて。助けてあげるから』
 少女特有の高い、けれどどこか落ち着いた響きにひどく安心した事を覚えている。
 あれから勇気のアークは何度もアリスに呼ばれては力を貸した。
 失敗も実は多かったけれど、アリスは最後には笑って許してくれた。
 助けているつもりで、本当はこんなに彼女を頼っている。当てにしている。
 勇気のアークは、今の自分の呟きからそれを知ってしまった。
「あーあ。ほんっと、情けない」
 そもそもこの状況を作り出したのは彼女だというのに、助けを求めるなんて。
 しかし他に呼ぶべき名は浮かんでは来なかった。



 そのころアリスは悩んでいた。
「そう、大事な花だったのね」
 目の前にはホウリンがいる。1人だと深みにはまってしまいそうで(まさかこんなことで他のアークたちを呼ぶわけにもいかない)、とりあえず話をしにきたのだった。
 ホウリンはアリスの様子がおかしい事を見抜いて、結局相談することになってしまったが。
「でも、あんなに怒る事なかったかなって。だって」
「そんなの、覚えてない方がいけないと思うけどね」
 ふわりと2人の周りを飛び回っているのは夢のアークだ。
 さっきまでは大人しく話を聞いていたが、説明を聞き終えて口出しをする気になったらしい。
「どうせほっといても、向こうから謝りに来るだろ」
 夢のアークは、なんだかんだいって勇気のアークがアリスには弱い事を見抜いていた。自分がホウリンに甘いように。
 それを聞いても、アリスの表情は晴れなかった。
「べつに、謝って欲しいわけじゃないんだよ」
 もう勇気のアークを怒る気持ちは、アリスの中にはカケラだってない。
「それじゃあ、謝りたい?」
 ホウリンがゆっくりと諭すように尋ねる。
 それには素直に頷いて、ホウリンを見た。"どうしよう?"そう、尋ねるように。
「やりたいことがあるのにいつまでも同じ所に留まったままなんて、アリスにしては珍しいわね」
 小さく笑って、ホウリンは言った。
 遠まわしで、けれどもわかりやすいアドバイス。
 アリスは見る見るうちに表情を変えて、立ち上がる。
「ありがとう、ホウリン!私、行って来るね!」
 今にも走り出しそうなアリスに、夢のアークが声をかける。
「行かなくても、カードで呼び出せばいいじゃんか」
 今度こそ大きく頭を振って、アリスは笑った。
「呼ぶんじゃなくて、迎えに行きたいの」

 走り去るアリスを見送りながら、夢のアークは彼女をこう評する。
「・・・変わり者」
 その言葉を耳にして、ホウリンは笑みを零した。
「だから、私も彼女に助けられたのね」
 そういうと夢のアークは気まずそうに椅子に降り立って、人型を作り出した。
 ふんぞり返るようにして椅子に腰掛け、足を組む。
「わかってるよ」
 随分と長い間が空いて、彼が零したのはそんな一言だった。



 ぼんやりと考えていてもいい案など生まれるはずもなく。結局行って素直に謝ろうという結論に達していた。
 そもそもアリスが怒った理由さえわかっていないのだ。
「気が重いなぁ」
 原因さえわかっていればまだ謝りやすいのに、と言い訳のように呟いて、重い腰を上げる。
 かといって、このままでいるのは絶対に嫌なのだ。
 勇気のアークは光の玉になってその場を飛び去った。

 光が完全に見えなくなってからしばらく経った後、壷の上に影が落ちる。
「こんにちは。勇気のアーク、見ませんでした?」



 ふらふらと足取りも重く森を抜け出てきた勇気のアークは、目の前に広がった花畑に目を留めた。
 ピクシーたちが育てている花だったろうか。
 四季の無いこの世界ではいつでも春のように過ごしやすいため、花も年中咲いている。咲く事ができる。
 そういえば、と勇気のアークは以前この場所でアリスと遊んだときの事を思い出す。
 しっかりしてるように見せかけて案外お転婆で無鉄砲なアリスも、普通の少女のように花が好きであった。
『初めて来たとき、ここは天国かと疑っちゃったくらい!』
 花畑に座ったアリスは冗談めかしてそう言った。
 なるほどたしかに綺麗だとは思うけれど、勇気のアークはアリスの考えを理解する事はできなかった。そもそも、天国などという概念がない。
 さほど遠くない日のことだったと思うのに、勇気のアークはひどく懐かしく思いながら花畑の上を飛んだ。
 赤い花、青い花、黄色い花、白い花・・・色とりどりの花が勇気のアークの瞳を染める。
 あれ?
 勇気のアークはなにか引っかかりを感じて花畑の中に降り立った。
 目の前にあるのは、白い色。
「・・・・・・あ!」
 頭をよぎる、金の髪を飾る白い花。照れたように笑うアリス。
 その花をさしてあげた手は、紛れもなく――。
「なんでわかんなかったんだろ!あれはきっと・・・」

「勇気のアーク!」

 数時間聞かなかった声が耳に届いて、驚いて振り返る。なかなか解けずにいたクイズを解いて見せたときのように、晴れ晴れしい顔で。
「アリス!」
 そして彼は駆け寄った。その手に答えを持って。
「ねぇ、君にとっても似合う花を見つけたんだ」
 目を丸くして見上げてくるアリスに、一本の花をさしてやる。
「ごめん。・・・それと、ありがとう。ずっと持っててくれて」
 にっこりと微笑んで、勇気のアークは思い出したとおりの言葉を繰り返した。心から。

「うん、思ったとおりだ!とっても似合うよ、アリス」
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…はい、初ミスティックアークSSです。
サイトさんを回ったりして再熱したときにがーっと書きました。実は授業中にも…(苦笑)
ミスティックアークでカップリングといったら、と考えたときにこの組み合わせって可愛くないかなーと。
アリスは私イメージで。ホントは喋らない方向だったんですが(汗)
アークもホウリンも偽者っぽくてすみません;;

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